埠頭を渡る風を見たのは。(1) update ver.

2011年11月に書いていたブログ記事の中から、歌謡曲の歌詞について書いた部分を編集して、掲載いたします。ご存知の方は、お楽しみください。


2011年11月8日

そう言えば、年末の紅白歌合戦に松任谷由実さんが出演するという情報が昨日流れまして、我が家としてはちょっとした話題になったのであります。知らない芸能人の名前などを話題にすると、頭から角が芽を出す人がいるんですけれども、松任谷由実さんだと角は生えてこないようであります。


ユーミンは、昔は荒井由美さん、結婚されてから松任谷さんなんですけれども、懐かしいわけです。松任谷由実さんの、初期のシングル『12月の雨』というのは昭和49年(1974)10月5日発売なんですが、これを翌年田舎の高校の音楽祭で歌っているのを聞いたわけです。斬新な歌でありまして、流行ってもいないけどいい歌だなあと思いました。彼女を決定的に意識したのは、昭和53年(1978)に出た『流線型’80』でありまして、これは最近パソコンに入れて楽しんでいるんであります。長らくカセットテープで楽しんだんでありますが、カセット版はいただき物でありました。


東久留米で引っ越しの際に、近所のアニメーターの奥さんが、『流線型’80』の録音したカセットテープ下さったので、それを大切にしました。自分のお気に入りの曲を、こんなふうにプレゼントすることが当時の若者文化でした。


聞き直してみると、ユーミンの声が甘く切なく聞こえまして、昔と印象が違うのであります。ひょっとするとデジタルリマスタリングとやらの効果かも知れませんが、従来聞いていたのに比べて、柔らかい印象がありまして、それとともに懐かしい気分が戻ってくるような気がいたします。かつて定番にして聞いていた曲を聴き直してみると、新たな発見がありまして、悪くないなあと思うのです。


そういえば、もうカセットテープを聴くと言うことがなくなりまして、カセットをかける機器が家の中にあるのかどうかさえ分からないのであります。テープのほうは、引っ越しのたびに整理するんですが、まだ大量に残っておりまして、たぶん再生する機会もあまりないままゴミになって行くのでありましょう。この種の記録媒体というものの変遷は激しく、整理整頓を始めたらもう不要品に近付いたと言うことです。CDに切り替わって20年近い時間が経ち、もはやCD自体が不要品に近付いているんではないでしょうか。


当たり前のことを今さら指摘しているんですが、ぼんやりと生きていますからご容赦下さい。今回のブログのタイトルは、ユーミンの曲の歌詞の一部です。


ウィキペディアで調べてみると、『埠頭を渡る風』という曲がシングル発売されたのは、昭和53年(1978)10月5日であります。それがレコードのA面だったようで、これに対して、いわゆるB面は『キャサリン』でした。2曲とも、その約一ヶ月後に発売された『流線型'80』に入っておりましたが、じゃあ、シングル曲『埠頭を渡る風』がものすごく売れたのかというと、たぶん首をひねる人が多いのではないでしょうか。


ユーミンのシングルとしては、売れ行きとか人気がさほどではないんですが、それでも「あなたにとってのユーミンの1曲を挙げて下さい」というような尋ね方をしたら、この曲は案外上位に食い込むのではないかという気もいたします。つまり、ここからユーミンに注目したという人がいるような気がします。私もその一人だということです。しかしながら、熱烈なユーミンのファンなのかというと、私の場合はそれほどでもありません。


1970年代に、特定の歌手のファンである、特定のアイドルに熱を上げているというのは、かなり微妙なタイプでありまして、振り返って考えて見ると、歌謡曲への嗜好は、広く浅くが普通だったかなと思います。流行している中から好きな曲を何曲か選んで、レコードを買うとか、カセットテープに入れて何度も聞くのが、若者の享受のあり方だったはずです。


『埠頭を渡る風』は、オリコンでは最高順位71位ですから、ユーミンの曲としてはヒットしなかった部類に入るのです。ひょっとすると、発売するレコード会社から見たら、この作品は失敗作と言ってもいいのかも知れません。ただし、この場合の失敗というのは、世間が求めていたものと、アーティストとして追求したものが結果的にずれていただけのことで、売れなかったけれども、後になってみたら「このユーミンがいい」という事はあったでしょう。


『流線型’80』のほうは、オリコンでアルバム部門4位というんですから、アルバムとしては世の中から高く評価された、みんなが買い求めて聞き惚れたというわけであります。シングルの曲がヒットしてテレビを賑やかにするという音楽の流行ではなく、アルバムを購入して、そのアーティストの世界に浸るというような受け止め方に移行しつつあった可能性が高いのです。言い方を変えると、デザートの甘いお菓子をみんなが楽しみにしていたら、どうも狙いが違うようだと、気が付いた人が多かったのでありましょう。つまり、ユーミンというシェフが腕を振るって、大人のフルコースディナーが供されたと言うことであります。


『埠頭を渡る風』という曲は、非常にシックな歌でありまして、確かに当時の歌謡番組で楽しめるようなものではありません。お祭り騒ぎのようなちゃらちゃらした歌ではないのであります。設定されているのは、東京湾岸の夜でありまして、それこそイメージのしっかりした曲なのであります。行ったことのない人でも、くっきりとその情景が目の前に現れるはずなのであります。


では、実際どんな場面なのかと言うことは、案外難しいのでありまして、考える余地は存分にあると言うことであります。この場合、私のほうに決定的な読み解くアイデアがあると思われては困りまして、歌詞を見ながらごく普通の常識を持って、ユーミンが言わんとしたこと、それとともに実は隠していること、そういったものを考えてみることに致します。以前にやっていた、『百人一首』のノリでありますね。


この場合の埠頭というのは、晴海埠頭であるとウィキペディアは教えるんですね。随分、ウィキペディアさんは事情通だなと思います。


「晴海埠頭」って言葉は知っていましたが、さてどこなのだろうとグーグル・マップで探しまして、「ああそこか」と言うことであります。そこなら、たった一度ですが、出かけて行ったことがあるんであります。銀座から築地を越えて行くところでありますから、この歌の流行っている頃に友人の250㏄バイクの後にまたがりまして、連れて行かれたことがありました。


さては、あの友人は、埠頭を渡る風を見せたかったのかもしれません。そうとは気が付かずに、どこへ行くのかと思い、着いてからも、どうしてここなのと思ったものでした。


私にはバイクに乗る友人というのが何人かおりまして、あちこち連れて行かれたものなのです。アクティブでもなく、バイクにも興味がありませんでしたが、そういう人間の方が連れ回しやすいのかもしれません。女の子を誘う練習をしていた可能性もあります。麻布十番のうなぎ屋に行くとか、奥多摩の心霊スポットに行くとか、そう言うことでありますから、デートの下見だったのでしょう。


そして、一度きりのことですが、どういうわけか鮫洲の運転免許試験場に連れて行かれたこともあります。750㏄バイク、いわゆる「ナナハン」の免許試験を友人の一人が見に行きたいと言うことでありました。何とここは運転免許試験の見学に関して、「どうぞいらっしゃい」「ウエルカム」の状態だったのでありまして、試験のすべてを実際に特等席で見学したんです。試験の最初は、横倒しのバイクを起こすことでありまして、ここで脱落する人がいるのであります。その上、見学を終えた友人は、親切なかた(後で聞いたら非番の白バイ隊員)から、隣の空き地で教えてもらいましたよ。

   
そういう、友人選びを間違えたような日常の一コマとして、なるほど、30年前の晴海埠頭の風を、こんな私も見たということは分かりました。しかし、ひとつ思っていることを言うと、「埠頭を渡る風は」見えないのじゃありませんか。興ざめなことを言うと、風というのは、目には見えないのが普通なのです。


昭和53年(1978)10月5日に発売されたシングル『埠頭を渡る風』という曲について考えはじめましたが、つまらない常識によって、早くも暗礁に乗り上げました。風は見えないものなのです。


ユーミンの曲の舞台が晴海埠頭だという証拠は、実は歌詞の中にはないようでありまして、セメント積んだ倉庫が当時の晴海埠頭にあったかどうか、そこからもう話が脆弱になります。倉庫はあったのかもしれませんが、もうすでにかなりよく知られていたデートスポット化していたような気がいたします。それも、車を持っている人限定のデートのメッカだったはずです。


『埠頭を渡る風』という曲の中の、主人公二人の移動手段は車でありまして、「となりに乗せて」というセリフによってそれが分かりますが、二人の関係が、実はこのセリフによって不安定な印象を与えるんであります。安定した関係の二人の間のやり取りではなさそうです。


以前、この埠頭に来たときには「二人はただの友達だった」と言うのでありまして、だとしたら二人は今は恋人なんですけれども、隣に乗るのが当然の深い仲ではないかもしれないのでありまして、それがこの歌の緊張感をかもし出しているのであります。

    
歌えるかたは歌ってみると、メロディと相まってつのって来る緊張感が分かります。ところで、二人で埠頭に来る「悲しい夜」とは、一体どういうことでしょう? 

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