瀬戸内寂聴『源氏物語』を読む(84) 絵日記提出(1) update ver.

 さてさて、『源氏物語』の現代語訳も、第17帖『絵合』の巻であります。微妙な巻であります。


たぶん、これを丁寧に映画などにしたら、案外面白いのかも知れません。どうしてかというと、物語の書いてある絵巻物がぞろぞろ出て来まして、かいつまんで物語が紹介してありますから、映画ならそれぞれの絵を動かしまして、劇中劇のようにドラマを展開して、結構起伏のある小説なのであります。ただ、残念ながら、目の前の『源氏物語』のほうが有名になってしまいまして、紹介される物語がしょぼくれて感じられますから、どうしてももう一つ絢爛豪華な「絵合」という趣向に乗り切れない感じがするのであります。現代で言えば、手塚治虫の『鉄腕アトム』やら『ワンダースリー』『ブラックジャック』などを紹介しまして、それに対して宮崎アニメを対抗させまして、どっちがいいか激論するような趣向なのであります。面白そうだが、枠組みである『源氏物語』が偉大過ぎて、扱われる物語の面白みが伝わってこないわけで、隔靴掻痒といいますかもどかしさと言いますか、しっくりしない所が痛いのであります。


瀬戸内寂聴さんが講談社から出している10冊ものの単行本『源氏物語』で読み進めておりますが、この「絵合」の巻は24ページに過ぎないものでありまして、ほとんどが行事の前後の様子ですから、ドラマとしてあまり深みがないのであります。これまでの人間関係をなぞったり、現在の境遇とか地位を改めて確認しているような点がひどく目立ちまして、ある意味退屈なのであります。今までと違うのは、光源氏の弟である蛍兵部卿の宮が、絵合の判者として登場しまして、気になる存在に昇格することくらいでありましょうか。あとあと、大事なところで出て来る人物ですけれども、ここではまだ全くの脇役に過ぎません。この人物が、もうちょっと性格なり生活振りが書き込まれていたら面白かったのでありますが、いきなりという感じで出て来て、光源氏と面と向かって色々論じ合うと、どうにもついていけないのであります。「須磨」の巻で頭の中将と一緒に、謹慎中の光源氏を見舞った人らしいのでありますが、とんと記憶にないのであります。


瀬戸内寂聴さんの現代語訳『源氏物語』第17帖「絵合」の巻まで読了しました。この巻に関して、首をかしげたくなるというか、少々不思議に思うことがあります。


一つは、漢詩や和歌などの引歌のようなものが影を潜めまして、面白い言い回しであるとか、洒落たやりとりとか、そういったものが無いような気がいたします。巻によっては、これでもかこれでもかと出て来るんですが、この「絵合」の巻に関しては、ぱっと見た目に皆無のようなのであります。単純に言うと、和歌や漢詩について教養がない人の文章のようになっているわけであります。あえて原作者が意図的にそうしたのか、それとも作者が違うのか、たまたまなのか、不思議な気がいたしました。どうしてそんなことを気にするのかと言えば、有名な和歌や漢詩の一節をタイトルに頂戴しようと狙ってきたわけでありまして、今まではやすやすと見付かったのであります。それが、この巻に関しては何もないのであります。


気の利いた和歌や漢詩の引用がなく、「ちっとも見つからない」「わけ分かんない」、というような途方に暮れた状態を味わったのであります。


もう一つは、この巻の光源氏は31歳という設定なんですが、光源氏30歳を描く巻が無いのであります。第14帖の巻のお終いで光源氏は藤壺に冷泉帝の結婚の打診をするのであります。六条御息所の娘である前斎宮を冷泉帝の後宮に送り込む算段をするんですが、その話がこの第17帖「絵合」の巻の冒頭で繰り返されますので、すんなりつながっていると思って読んでいるんですが、どうも一年飛んでいるようなのであります。構想上では何か予定があったのかも知れませんが、どうにも不自然でありまして、時々空白の時間が存在する奇妙さも問題ですが、空白を悟らせないように繋いでいるのは、どういうことなんでありましょう。


光源氏が都に戻ってからの紫の上の動静などは、書かなくていいものなのかどうか、気になります。また、明石の上の明石での子育てはどうなっているのか、少しは情報があったほうがいいのではないかと思ったりいたします。書くことはいっぱいあるはずですが、書かなかったと見てよいのか、書いたけれど破り捨てたのか。最初から書く気が無かったのか。それとも、そのあたりを書いた巻が何らかの理由で紛失でもしたのでありましょうか。


作者が、登場人物の動静をすべていちいち書くのか? と問われれば、たしかにそんなこともないわけで、適当に端折りながら物語を紡ぐのだという当たり前のことに辿り着きそうです。

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