瀬戸内寂聴『源氏物語』を読む(67) 清き渚に貝や拾はむ(4) update ver.
さて、瀬戸内寂聴さんの訳で読み進めている『源氏物語』ですが、「明石」の巻のツボを紹介します。
光源氏が須磨に蟄居して嵐に見舞われてさんざんだったわけですが、都の方に大きな変化が表れていて、その一番肝心なところは、弘徽殿女御の後ろ盾であった父の大臣が亡くなるという事態が生じます。このことは、朱雀帝の退位と冷泉帝の即位という事につながって行くわけですが、とりあえず光源氏の勅勘を解こうという話に発展しまして、光源氏を都に戻らせて復位させるということになります。「勅勘」という言葉は、「明石」の巻の冒頭に出て来るんですが、「須磨」「明石」の両巻になって、だんだん須磨に流れてきた理由が分かってくるようなところがありまして、このあたりは、ひょっとすると書き漏らしたとか、巻の内容を差し替えたなどと言うことが、もしかしたらあるかも知れません。「花散里」の巻の極端な短さというものは、非常に怪しいわけで、あの巻の内容が、女性の訪問の話だけに終始しているのは非常に異様だと思います。その辺りに、勅勘の場面などが本当はあったのじゃないかと思うわけです。削ったんでしょうね。削っては見たものの、話は不整合なのであります。
さて、光源氏が都に帰りますと、一番困るのは実は明石の入道でありまして、娘は悩んでしまいますし、奥さんには嫌みをさんざん言われるんであります。みんなから責められて、入道はボケ掛けてしまうのでありまして、お祈りに欠かせない数珠をどこかに忘れたりしまして、弟子たちにも馬鹿にされる始末なのであります。この場面で、庭石か何かに腰をぶつけて明石の入道が寝込むというシーンがあるんであります。したたかに打ち付けて痛いのでありますけれども、それによって光源氏が帰京してしまうと言うことが紛れるとありまして、分かるような気がいたします。本当に痛いのは胸でありまして、腰の痛みで胸の痛みを幾分か忘れることができるというのです。
やはり思うのですけれども、この明石の入道の描き方に精彩がありまして、この人が実は主人公なのであります。きっと。
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