もぢり百人一首(25) アップデート版
25 名にし負はば 人に知らせで 食ふもなか 餡(あん)によく合ふ 実(さね)のくるみが
(通釈)人から最中をもらったよ。こいつは、よく練られたあんこの中に、ほんとに見事にマッチしたクルミの実の食感が味わえる逸品であるけれども、その名を聞けば誰もが食いたがる程に有名なら、誰にも知らせないで始末することにしよう。ということでもぐもぐ、ああ確かにうまいうまい、きっと有名なんだろうやっぱり。
(語釈)○もなか……米の粉を練って薄く延ばした生地を焼いて皮を作り、中に餡を詰めたお菓子。クルミの実をほぼそのまま入れて最中の具とする場合もあるが、練り案などの中に砕いたクルミを混ぜ込む場合もある。ここは、後者を想定している。なお、この「もなか」は、本歌の助詞「もがな」をもじったもので、「食ふ」は「くる」をもじっている。本歌の「逢坂山」の「逢ふ」を「合ふ」、「さねかづら」の「さね」をクルミの実の「さね」として、歌の中に織り込んだ。
(本歌)名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人に知られで くるよしもがな
(『後撰集』巻第11・恋3・7005番 三条右大臣「女につかはしける」)
本歌の末尾に使われている「もがな」は、和歌では定番の助詞であるが、現代には残っていない。歌語として多用されて、やがてまったく新鮮味を失ってすたれたのかもしれない。それを「最中」ともじって歌にしてみたが、本当に面白いかと言うと、さほどのことはないだろう。「もがな」は名詞の後に使われた時は、「~があるといいなあ」というニュアンスであるようだが、言葉の成り立ちはあれこれ推定されているに過ぎない。「も」に「か」が付いたところから、「もが」が成立し、それに「な」が加わったとされるが、「も」に「がな」が付いて成立したと考えられる節もある。本歌は、「くる」が「繰る」と「来る」の掛詞なのかどうか、掛詞がないかもしれないという点で古来注釈が対立していて、よく分からないところがある。掛詞とする場合は、「逢坂山」という地名に「逢ふ」、「さねかづら」に「さ寝」を掛けるとして、修辞が満載の歌と言うことになる。ただ、掛詞を想定する解釈の弱点は、「行く」ではなくて「来る」と言っている点で、三条右大臣・藤原定方が女に贈った歌としては、解釈しにくいところがあるというものである。
修辞技法などというものは、考えていると分からなくなるものです。
歌謡曲などを聞いていると、妙なところで掛詞かもしれないというような表現があったりしまして、わざとそうしているのか、こちらが勝手に掛詞を想定しているのか、判断のつかないことがあるものです。来生えつ子さんが書いた歌詞で、薬師丸ひろ子さんが歌った歌の中に、けっこうたくさん出て来るんですが気のせいでありましょうか。たとえば、「都会は秒刻みのあわただしさ」というのがありますが、来生たかおさんのメロディだと「都会は病気」と聞こえまして、ちょっとしゃれているのであります。別の歌では「あなた車で背中を見ていて」と言う一節がありますが、これは「来るまで」とも聞こえまして、どっちも成立であります。さらに「思い出の反乱」というのは「思い出の氾濫」とどっちが正しいのか、分からなくなる時があるのであります。最初の例は、『セーラー服と機関銃』、次の歌は『メイン・テーマ』、最後のは『語りつぐ愛に』という曲でありまして、たまたまとも思えないところがあります。
ところで、「である」体と「です・ます」体を混在させて書くというのは気持ち悪いのでありますけれども、それはそれで構わないのじゃあるまいかとも思っているのであります。
文体というか口調の問題で思い出すことがあります。たぶん泉麻人さんの本であったと思うんですが、随分昔出たものでありましたけれども、その中で桜田淳子さんの『はじめての出来事』というヒット曲について、ささいな傷を指摘なさっていたことがありました。阿久悠さんの作詞なんですが、「大人びたふりをしてここまで付いて来たが」の「来たが」が女の子の心情を訴える歌詞としてはおかしいのではないかと言うものでありました。確かにそうなんでありますけれども、ヒットしている最中はちっとも変だと思わなかったんであります。言われてみれば確かに違和感はあるのでありまして「来たの」くらいでよかったのかもしれないのであります。あるいは歌詞の展開から「来ても」の方がいいのかとも考えられます。文体と言うのはどっちにしても現実とは距離のあるものでありまして、中年男性だった阿久悠さんが10代の女の子の気持ちを歌詞にしていたわけですが、そのことが透けて見えて、泉麻人さんは気になったのかもしれないのであります。しかし、あの歌をあの当時少年の私が聞いているときは、違和感は全くなかったわけで、そのことが不思議であります。
歌などと言うものは、常にその時代の口語から見たら変なところがありそう。
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